『闇を裂く道』吉村昭 著
【熱海で記録的大雨 土石流2人死亡20人不明】
今朝の新聞の一面記事が目に飛び込んできて全身が騒めきました。
熱海で記録的大雨…。このタイミングで…。そう…。
まさに、その熱海から三島一帯を中心に繰り広げられた土木工事の本を昨夜読み終えたばかりの私には、その重く重く濃すぎる内容が一気にフラッシュバックし、瞬間凍り付いてしまった感じでした。
吉村昭氏の500ページにも及ぶ力作長編“闇を裂く道”は、丹那トンネルの建設工事の詳細を記したものです。熱海~三島間の時間短縮のため、トンネルを掘って線路を通すために、1918年(大正7年)4月1日から15年11ヶ月10日の年月をかけ、従事した作業員・工夫は延べ人数250万人にも達した大工事。
その実態は、とてもとても重く、問題が発生するたびに、本を読んでいるだけの私ですら極度の緊迫感や疲労感を感じるものでした。
熱海~三島は温泉が湧く恵まれた景勝地で、さらにトンネルの上に位置する丹那盆地は富士山や箱根の山に積もる雪解け水が至る所に湧き出て、清流が走る豊かな土地で田んぼ、ワサビ田、牧場などが広がる別天地だったそうです。
そしてそこに住む人々も、とても人情厚く、穏やかに日々の生活を営んでいたそうです。その情景を読んでいるだけで、目の前には清らかな水と緑がいっぱいの大自然がひろがりココロが晴れ晴れと澄み渡る思いでした。
その丹那盆地が、トンネル工事がすすむ過程で、どんどんと枯渇し田畑は荒廃し、同時に人心もすさみ暴動が起き、工事を指揮する鉄道省や関係者と衝突していきます。
便利さを求め、経済成長を求めて推し進めた大工事がもたらしたもの。そこには自然や人々の営みを破壊し、再生不可能な状態にしていく過程が刻々と記されています。
また工事に携わり事故に巻き込まれ、殉死した人たち、九死に一生を得た人たちの人間ドラマや人間社会のヒエラルキーも記されています。
現代社会において、日々、何気に通過してしまっているトンネルに込められている人の想いや歴史を振り返る時、そこに込められている無言のエネルギーを感じずには要られません。
今でも土木工事に携わる人たちは、日々自然のチカラを充分に感じているからこそ、見えないもののエネルギーや摂理を敬いながら仕事をしていると聞きます。
どんどんと突き進んでいく人間社会の中で、ココロの豊かさや自然の包容力、失ってはいけないものを感じ取りながら生きていかないといけないな、と改めて感じた1冊でした。
大阪傾聴ルーム(1on1)新町カウンセラーす~みん
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